『土曜の夜と日曜の朝』は1958年、30歳のときに発表された、シリトー英文壇へのデビュー作である。
「労働者がこのような物の考え方をするはずがない」と、5回もあちこちの出版社から断られたあげくの出版であった。
最初の章が書かれたのはそれよりも3〜4年早く、その後、当時書き溜めていたいくつかの短編のプロットを注ぎ込んで、現在の形にまとめられた。
題名も、はじめは、現代の“悪党物語(ピカレスク)”を書こうとしたという作者の意図そのままに『アーサー・シートンの冒険』となっていたはずが、すっかり書き上げてから、今の題名に変えられた。
第2作目の『長距離走者の孤独』、それに次ぐ短編集『屑屋の娘』など、たいへん魅力的な題名をつける作家である──
(新潮社文庫『土曜の夜と日曜の朝』解説・河野一郎より)
忌野清志郎が青春時代に愛読し、影響を受けたという小説がある。
ジョン・アップダイクの『走れウサギ』、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』、そしてJ・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』などと共に清志郎が挙げていたのがイギリスの作家アラン・シリトーの作品だった。
今から約60年前のイギリス労働者階級の日常を描いたこの長編小説『土曜の夜と日曜の朝』に登場する主人公アーサーは、自転車工場につとめる二十一歳の青年だ。
彼の楽しみは、仕事を終えて工場を出たときからはじまる。
パブで飲んだくれて喧嘩し、友達の妻に手を出し、軍隊では落ちこぼれっぱなし…と、まるでエルトン・ジョンが1973年に発表した「Saturday Night’s Alright for Fighting(土曜の夜は僕の生きがい)」が聴こえてきそうな日々を送っている。
♪「Saturday Night’s Alright for Fighting(土曜の夜は僕の生きがい)」/エルトン・ジョン
土曜の夜はケンカにもってこい
ちょっとしたアクションを起こそうぜ
土曜の夜こそ僕の生きがい
土曜の夜は最高!
俺が好きな音は二つだけ
飛び出しナイフとオートバイの音だ
俺は労働者階級の平凡な若僧
グラスの底に残る酒を親友とする男
とても品行方正とは言えない青年だが、目に見えない閉鎖感を振り払おうとして社会や体制に突っかかっていく姿が妙にほほえましかったりもする。
シリトーがこの小説を書いた頃といえば、イギリスではエルヴィス・プレスリーのロックンロールが労働者階級の若者たちの間で大流行していた時代だ。
物語の中では、こんな描写が当時の雰囲気を伝えている。
「店のいちばん奥のステージで、誰かがマイクに向かって蛇みたいに頭をくねらせながら、泣き叫ぶような、調子はずれな声で歌っている。<中略>マイクに送りこまれる憑かれたような声がふわふわとタバコの煙幕を通りぬけてアーサーのまわりで旋回し、その騒音を発している狂人の喉を締めつけてやりたいと彼は思った。」
♪「Hound Dog」/エルヴィス・プレスリー
60年〜80年代に活躍したイギリスのロックアーティストには労働者階級の出身者が多い。
ビートルズもそうだったし、パンクロックのミュージシャンもほとんどが労働者階級の若者だった。
1970年、ビートルズ解散後にジョン・レノンが発表した初のソロアルバム『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』には「Working Class Hero」が収録され、労働者階級の前に立ち塞がる差別の壁に“静かな怒り”が投げつけられていた。
♪「Working Class Hero」/ジョン・レノン
生まれるやいないや
自分は取るに足らない存在だと思わされる
与えられるべきチャンスもうばわれて
しまいに苦痛の激しさに
何も感じなくなる
労働者階級の英雄になるのは大変なことだ
労働者階級の英雄になるのは大変なことだ
また、1977年にセックス・ピストルズが退屈な失業の日々を「Pretty Vacant(空虚野郎!)」と皮肉たっぷりに歌い、当時イギリスで燻っていた若者達が大いに共感したという。
♪「Pretty Vacant」/セックス・ピストルズ
幻想なんか信じちゃいない
現実が厳しいからな
だからグダグダ言うな
俺達の感覚は俺達が知ってる
俺達はとてもかわいいもんだぜ!
とってもかわいい空っぽ野郎
そう!俺達は空虚野郎さ!!!
シリトーがこの『土曜の夜と日曜の朝』でデビューした1958年と言えば、イギリスとアイスランドが漁業権を巡って争った“タラ戦争”が勃発した年でもある。
不安定な国内情勢が続く中、労働者階級の暮らしは決して豊かなものではなかった。
その数年前から英国文壇では『怒りをこめて振り返れ』のジョン・オズボーン、『ラッキー・ジム』のキングスレー・エイミス、『急いで駆け降りよ』のジョン・ウェインなど“Angry Young Man(怒れる若者達)”と呼ばれる一派が一世を風靡していて、たちまちシリトーもその一派に組み込まれてしまった。
労働者階級の出身者で学歴も高くはないオズボーン以外の(一派の)作家たちは、概ねオックスフォード大学卒のインテリだった。
それは工場労働者の息子であり、自らも工場労働者であったシリトーとは異質のものだったのだ。
作品を通じて反体制を叫ぶ“怒れる若者達”は、体制の改革と共に消えてゆく…。
しかし、シリトーが物語の中に登場させる主人公たちはなおも怒り続けた。
社会が不当に築いた規制への反発、その規制を守ろうとする権力者の偽善に対するアナーキックな憤りから“不道徳行為”という方法で権威へのささやかなプロテストを試みたのだ。
この『土曜の夜と日曜の朝』の物語は、主人公アーサー・シートンが酔っぱらって階段を転がり落ちるところから始まる。
そして、へべれけになりながらも彼はちゃっかり同僚の妻ブレンダのベッドに転がり込む──。
そんな彼らの行動は、積極的に体制を破壊しようとする方向へとは向かわない。
反体制的な“反抗”ではなく、非体制的な“反逆”と言ったほうが近いのかもしれない。
またシリトーは、出身や経歴故に“労働者作家”と呼ばれたが、本人はそれを死ぬほど嫌い「自分はどんな階級にも属さない脱階級ルンペンだ!」と言っていたという。
シリトーが描いた“労働者階級の日常”そして“悪党物語(ピカレスク)”は、時を超えて、海を超えて…後にジャパニーズロックの立役者となるアーティスト達の愛読書となり、いくつかの名曲を生み出してゆくのだ。
♪「ガ・ガ・ガ・ガ・ガ」/RCサクセション
♪「Heavy Days」/ARB
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